以前のブログでも自賠責保険会社に対する被害者請求は何度か取り上げましたが、今回は、被害者請求の根拠や関連する自動車損害賠償保障法(自賠法)の構造についてお話ししたいと思います(今回の内容は条文などを用いてお話するため分かりづらい箇所も多々あると思いますが、何卒ご容赦ください)。
まず、被害者請求の根拠条文ですが、自賠法16条1項となります。
自賠法16条1項は「第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。」と定めています。
つまり、①保有者が②自賠法第3条の損害賠償責任を負うこと、が自賠責保険会社に被害者請求できる要件になります。
自賠法3条は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。」と規定しています。
但書以下の記載は割愛しますが、自賠法3条の責任が生じるためには、①運行供用者性②他人性③損害④因果関係が必要になります。
たとえば、夫が所有し、夫が運転する車両で、同乗の妻(日常、妻は夫の車両を運転しないものと仮定します)が、夫の不注意で電柱に衝突してしまい、妻が負傷した事例で、夫の車両の自賠責保険会社に被害者請求できるかについて、条文に当てはめてみるとどうなるか考えていきます。
まず、自賠法3条の要件から当てはめていきます。
夫は自ら運転していますので、①運行供用者性が認められます。
では、②他人性はどうでしょうか。
夫から見たときに妻は他人?と疑問に思われる方もいらっしゃると思いますが、自賠法3条の「他人」とは、「自己のため自動車を運行の用に供する者(運行供用者)および当該自動車の運転者を除く、それ以外の者」をいいます(最判昭和37年12月14日)。
そのため、妻を含む家族であっても「他人」に当たり得ます。
③・④は本件では問題なく認められます。
したがって、夫は妻に対して、自賠法3条の損害賠償責任を負うことになります。
そのうえで、自賠法2条3項で保有者を「自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう。」と規定していますので、夫は車両の所有者ですから、保有者に当たります。
よって、自賠法16条1項の要件を満たすため、妻は夫の車両の自賠責保険会社に対して被害者請求することができます。
このように、妻は「他人」と言えるのか、夫が電柱にぶつかった事故でも妻は夫の車両の自賠責保険を使用できるのか、など一般的な感覚からすると疑問が生じる場合であっても、法律の要件を満たすのであれば、被害者請求できることもありますので、被害者請求でお悩みの方は交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。