減収がない場合の後遺障害逸失利益の算定について

後遺障害逸失利益とは、後遺障害が認定された場合に、後遺障害がなかったのであれば得られたであろう収入等の利益をいいます。
減収がない場合には、基本的には後遺障害逸失利益が認められないため、この点についてお話ししたいと思います。

後遺障害逸失利益の計算方法は、一時金賠償の場合、一般的には、基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数、により算出します。
たとえば、令和2年4月1日以降の事故、事故前年度の年収が700万円のサラリーマンの男性で、後遺障害等級第8級が認定された場合、症状固定時の年齢が42歳であれば、一般的には、700万円×45%(後遺障害等級第8級相当の労働能力喪失率)×17.4131(67歳までの労働能力喪失期間25年に対応するライプニッツ係数)=5485万1265円となります(事案の内容や証拠の内容によっても異なります)。

もっとも、後遺障害が認定された事例で、減収が無い場合には注意が必要です。
最高裁判所の判決(最判昭和56年12月22日)で、減収がない事案において、「特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はない」と判断しており、この「特段の事情」について、「たとえば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであって、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であっても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべき」としています。
このように、裁判所の判断では、減収がない場合には、基本的には、後遺障害逸失利益が認定されないことになります。

後遺障害逸失利益に関しては、様々な裁判例がありますので、お悩みの方は交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。